壁登り実験
背景
 カスミサンショウウオは変態すると、水田などの湿地から山林に移動します。
 しかし、近年の開発などによって、水田と山林の間に水路が作られ、カスミサンショウウオの移動や産卵が阻害されていると考えられます。実際に、私たちが発見した産卵地の中にも、三面コンクリートの水路や石垣で囲まれた溜め池など、傾斜角の大きい人工的な「壁」に囲まれた産卵地が存在しています。 また、野外での観察では、ため池に放った変態直後の個体が、石垣を上ろうとして何度も落下する様子が観察されました。
 そこで、今回私たちはカスミサンショウウオの変態直後の個体は傾斜角の大きい人工的な「壁」を登ることができるのかという疑問をもち実験を進めることにしました。
方法
 容器に30cmコンクリート板を[1]〜[3]の条件にしたがって立て、片方に砂利を引き、1日汲み置きした水を入れました。 また、カスミサンショウウオの生息地ではコンクリート壁が生息地の水を吸ってある程度湿っているので、条件を合わせるためにコンクリート板は実験前に霧吹きで湿らせました。

 上陸したカスミサンショウウオのカウント方法は、砂利の上に変体直後のカスミサンショウウオ20匹をいれ、24時間後にケース内に入っているカスミサンショウウオを上陸した個体としました。そして、各実験ごとに上陸したカスミサンショウウオの割合を求め、上陸成功率としました。
条件
[1]傾斜角を変える
 滑らかなコンクリート板の傾斜角(θ)を15,30,45,50,60,75,80,85,90度に変えて、実験を行いました。(繰り返し回数=1)
[2]表面形状を変える
 コンクリート板の表面形状を滑らか、粗い、縦縞、横縞に変えて実験を行ないました。(繰り返し数=2)
[3]角を設置
 先行研究より、トウキョウサンショウウオが角を登ってコンクリート壁を登ることが知られています。もし、カスミサンショウウオでもその傾向が見られるならば、用水路に角を作成することで、上陸の補助ができるのではないかと考えました。(繰り返し数=2)
結果・考察
 左図のグラフが条件[1]の傾斜角の実験結果です。傾斜角が大きくなるにつれ、上陸成功率が減少し、75度以上ではほとんど上陸できないことがわかります。しかし、必ずしも傾斜角が大きいと上陸成功率が小さいというわけではなく、30度より15度のほうが上陸成功率が小さいという結果となりました。

 このことから、ある程度の傾斜角がないと、カスミサンショウウオは上下方向を感知しにくくなり、上陸成功率が減少すると考えられます。また、実験の観察より、75度〜90度では、壁を10cm〜20cm登ったところで、コンクリート板から体が離れて落下する現象が観察されました。その理由としてはカスミサンショウウオが壁を登り始めるころは、水から出たばかりなので体が湿っていて、水分による接着効果でコンクリート板にくっついていますが時間が経過するにつれて体が乾いていき、接着効果が弱まって いくので落下するのではないかと考えました。

 右図が条件[2][3]の表面形状・角付きの実験の結果です。

条件[2] 60度においては、表面の目が粗いもののほうが、表面が滑らかなものより、上陸成功率が増加し、 材質に凹凸がある場合はさらに上陸成功率が増加する結果となりました。

条件[3] 60度のときは、角をつけることで、表面形状が滑らかなコンクリート板よりも上陸成功率は大きくなりましたが、 目の粗いコンクリート板と大きな差はなく、傾斜角が90度のときは、上陸成功率に大きな差は見られませんでした。 よって、角をつけることによる上陸補助の効果は大きくないと考えられます。

 これらのことから、傾斜角が60度において、コンクリート板に縦向きに凹凸のあるものが登りやすくなる理由は、 カスミサンショウウオが凹凸のへこんだ部分登ることで、でっぱりの部分を足で突っ張る力が加わり体を支えているから、 横向きに凹凸があるものが登りやすくなる理由は、カスミサンショウウオが足を掛ける場所ができるため踏ん張る力が加わり、 体を支えているからだと考えられます。

 傾斜角が90度において大きな差が見られないのは、体が地面に対して垂直な体勢で登ることになるため、 突っ張る力や踏ん張る力より重力による落下効果が大きくなり、体を支えるのが困難になるので、 凹凸を利用しても落下するリスクが高まるからだと考えられます。

結論
 カスミサンショウウオは傾斜角が大きいコンクリート壁を登ることは非常に困難であると考えられます。また、今回実験に使用したコンクリート板は30cmでしたが、実際の生息地はそれ以上の高さのものも存在するので、より上陸が困難になると考えられます。


2014年度



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